舞台「文豪とアルケミスト 綴リ人の輪唱(カノン)」

すごくすごくよく出来た演劇だった。観た後ズシっとくる感覚があって放心状態になる。この感覚を味わうために平野さんの舞台に通っている。コロナで中止した公演もあり結果的に昨年末から主演が4作続いており、すべてが心に響く作品。毎回こんな気持ちになれて幸せだ。

賛否と共に熱狂も生み出した今作、役者の熱量に押しきられたといっても過言ではない。下手な役者がやれば即否に傾きかねない、色んな意味でギリギリを歩くこのお話し、上手い役者陣からクソ重い感情をぶつけられて、すぐには消化できず、いったん考え咀嚼せざる得なくなった。絶賛する人、否定する人、何度も見て希望の光を見出だす人様々だった。
でも文劇3は作品にどんな感想を抱くかは読み手の自由というメッセージをうちだしていたこともあり、各々が思ったことをつぶやいていた。それが文学好きな文アルのお司書さん達なので考察も文章力もレベルが高い。だから感想読むだけでも面白い作品で、気になって配信を買う人が沢山いたのも興味深かった。舞台は現地に行くのがもちろんいいけども、この作品は映像でも伝わるものが大きくて配信にも向いていたと思う。


北原はくしゅう役、佐藤永典。さとちゃん、めちゃくちゃ素敵だった。いつのまにこんな素敵な役者さんに。意地悪言わない白秋先生。聖人であるけど時折見せる陰に魅せられる。熱を込めさせれば心に訴えかけてくる。武器をかまえさせれば殺意が高い。さとちゃんは奥底に鮮烈にきらめくものを持っていて美しく危うい。それが白秋先生と呼応して魅力的で、先生に荻原と室生がキャッキャしてるのが羨ましくて弟子になりたい!と何度も思った。本人が認めなくても、弟子が一万人は増えたと思う。

萩原さくたろう役、三津谷亮。三津谷くんは一回見ただけでもお芝居が大好きで、そして天才の部類なのがわかる。滲み出るオーラと感性に惹き付けられる。朔ちゃんは、前回はおどおどしていたのに仲間を得て生き生きとしていて、2を見ていたからこそ仲間に会えてよかったなとこちらまで嬉しくなった。朔ちゃんが転ぶことで逆に三津谷くんの体幹の良さが際立つ。いつか平野さんとのガチ芝居が見たい。

室生さいせい役、椎名鯛造。今作のかなめ。説明役でもあり、空気を安定させ盛り上げる。特に後半の萩原や太宰への呼びかけなどを見てると、鯛ちゃんいなかったら感動が半減するんじゃないかとさえ思う。今まで華麗な殺陣ばかりに気を取られていたが、何て上手い人なんだと思った(語彙がない)。そして相変わらず太陽のようにまわりを明るく照らす存在感。室生にもぴったりだった。

中原ちゅうや役、深澤大河。今回唯一の太宰の理解者。懐がふかい深澤くんが演じることで、寂しさを抱えていてどうしようもない酒飲みだけど、実は太宰を気にかけてて優しく頼れる印象が強く残った。そしてすごく可愛い。ちゅうやをどんどん好きになるし、深澤くんは今回唯一の20代しかも25歳でこのメンツに入れる落ち着いた雰囲気と実力。将来どうなるのかソワソワする。

江戸川らんぽ役、和合真一。また声が良くなってる!なんて良い声。声優さんかなと思うくらい。説明長台詞も安定してて聞きとりやすい。 鞭の殺陣も多くて妖艶で。ビジュアルもキャラクターもガチッとはまっていて、芸術作品の自撮り見るのも楽しみだった。悲の感情の出しにくい役だと思うけどキャラクターを保ちつつ色んな感情を出し、美しく華やかに妖しく。また和合の世界に魅了された。

芥川りゅうのすけ役、久保田秀敏。芥川のみシリーズ全てに出演している。芥川がいることで世界観がつくられる。文劇3の先生は特に優しくて殺陣が激しい。言葉の説得力、柔らかさ、儚さ、強さ。さらにくぼひでが演じることで可愛さ増し増しで、太宰くんとやり取りが微笑ましかった。見た目も含め、彼以上にこの役をできる人は存在しない。


太宰おさむ役、平野良。幼く純粋で可愛いけどカッコいい。躁鬱でテンションジェットコースター。JK、推しは芥川。民衆(私達)であり天才でヒーロー。なんだこの設定。それでも全てひっくるめて彼であり、一人の人物としてどんな一面をみせても違和感なく作り上げられていた。
前半は道化であり心の揺れを細やかに見せられ、ハラハラして見てると案の定……でも支えられ思い直し誰よりも強く固い意思をもって敵に立ち向かう。色々なものを背負い、でもどこまでも真っ直ぐで輝いていてすごくまぶしい。

今回殺陣が多い!大きな鎌をクルクルと回し、マントを翻し、華麗に舞う。音楽に合わせて殺陣をしたり惚れ惚れする。あとはやっぱり可愛い。あー可愛い。いつまでも見てたい。あんだけ動いて喋ってフェイスシールドが曇らないのは何故なの?発声法なの?

文劇の戯曲が発売されて、文劇1を見たときはほぼアドリブなんじゃないかと思っていたが、ほぼ脚本どおりなことに驚いた。その台本をもとに文アルの世界にするために平野さんが悩んで模索した結果、文アルだざとは少し違う劇だざを愛してくれる人がたくさんいて、作品が好きだと言ってくれる人がいるなんてすごいことだなと思う。ただ平野良はキャラに思い切り寄せることもできるよとお伝えしたい。憂国のモリアーティのホームズも封神演義趙公明もキャラそのままだと評判だよ。でも濃いから脳裏に張り付いて離れなくなるのは文劇の太宰と同じだよ。


文劇は一端ここで終わりとのこと。要望があれば続編を作る可能性はあるらしい。どちらにせよ平野太宰の役割は終わったのかな。でも無頼派4人がいつか見れたらとても嬉しい。そんな日を願って。