ミュージカル「憂国のモリアーティ」Op.2 ♯モリミュ

キャス変なしでの待望の第2弾。なのにコロナで中止になるかもしれない一か八の状態。チケットも前回の評判から通常でも激戦であろうに、客席半分で激戦どころの騒ぎではないくらい取れない。取れたとしても泣く泣く諦めた人も。そんな緊張状態の中、めでたく初日を開け大千秋楽まで無事に終わった。たとえ席は半分であっても拍手は満席以上に大きな拍手が響きわたっていた。

脚本・演出、西森英行。西森さん得意の関係性エモを詰めるだけ詰めまくった今作。ライバル、兄弟、仲間、恋。クソデカ感情のぶつけ合い殴りあい。今回色んな話を詰め込み交差。でも原作の大事な要点をしっかり押さえ、歌や殺陣など個々の見せ場がすごく増えて楽しさ倍増。裏の社会で暗躍するウイリアムチームと表の社会のシャーロックチームというチーム戦。ウイリアムチームはどこか儚く、シャーロックチームはエモーショナルに。この高揚感のある作品は西森さんだからこそ。

作曲、ただすけ。かなり違う曲調を、世界観を崩すことなくキャラと演者の特徴に合わせて作曲してくれている。しかも前回の歌唱をみて、このくらいまでいけるという予測の最高値よりもさらにその上まで難易度を上げるという、鬼の仕様。でも個々の魅力を引き出す曲が多く聞いててワクワクする。そして公演数を重ねるほど役者のギアがどんどん上がっていく。どういう経緯でただすけさんに依頼し受けてくれたのかわからないが、ミュージカルは2年目とのこと天才。



イリアム役、鈴木勝吾。今回も悪魔の高音というか、もはや神に思えてきました。セットの高台に常にいるウイリアムには後光がさしていて会場全体に高音を響かせる。前回は高音が苦しそうな時もあったのに、容易く歌えるようになり曲やキーが難しいことも忘れてしまうほど。声が柔らかくなり表現力も増し、優しい印象が強く。何を考えているかわかる光のウイリアム。ソロは鳥肌もの。

アルバート役、久保田秀敏。暗躍しまくる、大活躍。そしてずーっと色気を振り撒く。あんなに仮面似合う人います? 大人の余裕、所作の美しさ、低音の良い声、ダンスの華麗さ。惚れた。すごく格上に見えた。でも腹の底で何考えてるかまったくわからない。漆黒なのはわかる。モリミュで一番ヤバイのはアルバート。笑った顔にゾクッとする。キャラによって独特雰囲気出すのが最高に上手い。

ルイス役、山本一慶。兄さんって何回言うのかってくらい連呼する。他は目に入っていない。素敵。兄さんにちょっかい出すと殺される。シャーロックへの嫌悪から顔を歪めるのがたまらない。美しさに磨きがかかっている。声量と艶のある声。演技力が高いためただ立っているだけで伝わる殺気。そして殺陣がもうため息しか出ないほど美しい。メガネとるのはもう…。

モラン役、井澤勇貴。覚醒。元々あった歌唱の安定感と超美声に加え、声量が格段に増え感情もすごくこめられるように。どうした、彼に何が起きた。演技に癖も加わり、抜群のスタイルとキレイな顔、美しくかっこいい殺陣とオーラも相まって、無双状態。うわぁかっこいい…以外の感想が出てこない。とにかく見てほしい。

フレッド役、赤澤遼太郎。モリミュの癒し。女装姿は誰よりもかわいい。フレッドの静かな怒り、不安、焦り、悲しみ。感情を全面に出せないぶん難しいと思うのに常に伝わってきた。すごい解釈一致。千秋楽で歌も演技も公演前半よりえげつなく成長していて驚く。本人の努力と才能、そして環境。百戦錬磨の先輩たちと対等に渡り合っていた。


シャーロック・ホームズ役、平野良。過激な狂気と驚喜、内面の繊細さ、決断力と強さ、感情も表情もクルクル変わる。しかも全ての感情が歌でもセリフでも動きでもダイレクトにこちらに伝わる。シャーロックから目が離せない。一人でヤンデレツンデレ、切ない恋心まで演じる。ゆえに登場人物のほとんどがシャーロックに夢中。なぜ指で氷を…そのネクタイの外し方…

前半はシャーロックのヤバさが際立つ。精神不安定、闇が深い(好き)。怖いくらいイカれている。でも後半も見てると彼の周りには支えようとしてくれる人が沢山いて、そんな彼自身も人を助けたいと必死で考える姿にキュンとする。ジョンと呼ぶ声が好き。圧をシーンによって使い分け空気を操り、癖も増し増し魅力たっぷりに演じていた。

シャーロックには音程とリズムの難しそうな曲がいっぱい。前半の曲は歌ってる?話してる?どういう状態?超絶技巧。後半には前回の歌唱から作ってくれたであろう悲哀が伝わる感傷的なソロ曲が多い。歌から伝わる想い、悔しさ。その熱にひきこまれ、心が締め付けられた。好きなのはアイリーンの部屋にジョンと潜入するコミカルなロングナンバー。セリフだけでなく、歌っていても独特の抑揚と心地のよいリズム。永遠と聞いてられる。


ジョン・H・ワトソン役、鎌苅健太。シャーロックの天使。安定剤。可愛いの権現。一人キラキラキラキラしてる。鎌苅ジョンの安定感と包容力から、シャーロックに振り回されているようで、実はジョンくんの手のひらで転がしているようにも思えた。機転が早くコンビの掛け合いもどんどん冴え渡る。息ピッタリ。 今回愛の歌がなかったのが残念。オープニング曲最後で座らせようと思ったの誰?天使がいる。

ハドソン役、七木奏音。めちゃくちゃかわいい。ハドソンさんのときだけ幼児番組のバイキンみたいの出てくるけど、それが可愛さに拍車をかける。強さと品のある感情豊かな歌声。プンプン怒っていても愛情が伝わるので、シャーロックが頭が上がらないのも納得。好きすぎて、彼女を泣かせたら承知しない!という気持ちが湧きあがる。

レストレード警部役、髙木俊。確実な笑いを担当しメリハリを付けてくれる。みんな感情で殴り合ってるなか、レストレードが出てくると期待と共にホッとする。ヒーリング効果がすごい。そしてシャーロックを大事にしていることが凄く伝わる。しゅんりーさんの存在は偉大。


アイリーン役、大湖せしる。宝塚で長年男役をやってから女役に転向されたお方。まさに適役。男役はかっこよく、女役のときは峰不二子ばりに色気を振り撒く。 だけどやっぱり一番すきなのはボンドになったときの歌声。最っっ高にかっこいい。次作が楽しみ。顔がびっくりするほど小さくて目が大きい。そしてあんな細いのに胸がでかい。なぜだ。

マイクロフト役、根本正勝。シャーロックの兄であり、シャーロックよりも手強い存在。凛としていて、とにかく品がすごい。歌声もカーンと響くまっすぐな高い声。政府の要人感がすごい出ている。アルバートとの色気対決も素敵だったし、冷たい雰囲気なのに弟に対してだけ柔らかくなり大好きなのが伝わって二人のシーンがもっと見たかった。


ピアノ、境田桃子。桃子さんは3時間弾きっぱなし。常に演者に合わせないといけないのに、すごい集中力。稽古からずっと演者に寄り添うモリミュのかなめ。バイオリン、林周雅。林くんの技術と表現力はすごいんじゃないかと素人ながら思う。シャーロックの影でもあり、一緒に走って登場してきたり、悪魔角つけたり、動きもシンクロしてるとこが多くなってほっこりした。

前回より歌唱力がパワーアップしたアンサンブル。ミュージカルを主戦上にやってる方々が多く、上手いし特徴のある演技や見せ場があったりして顔や名前を覚える。ウイギンズが好き。
他にも手技足技を使った派手でかっこいい六本木さんの殺陣、舞台上がすごく華やかになるMAMORUさんの振り付け、一番大事な”音”がきれいに聞こえるシンヤさんの音響、他にも衣装や照明、宣伝に至るまですべてに抜け目が無い。箱推しとはまさにこのこと。


モリミュOp.2はストーリー、演技力、殺陣、見た目を含めた2.5次元の高揚感を残したまま、グランドミュージカル並に歌う。一部キャストだけでなく全員が強い。2.5として和製ミュージカルとして新たな道が広がる可能性が見えた作品だった。大人の2.5次元が根付けばいいなと思う。

この作品は、なんといっても演出の西森さんが凄い。脚本演出はもちろん、このアクと主張の強そうなキャスト陣をまとめあげて、ここまでの作品に昇華するのは並大抵のことではないと思う。人となりや作品への情熱がわかるので、平野さんと西森さんの対談を見てほしい。Op.3もやってくれるはず。キャス変なしで…期待してます!!
https://youtu.be/2g5mh3LCybk