舞台「ウエアハウス -double-」

閉鎖された教会の地下にある“憩いの部屋”で活動する暗唱の会。各々が詩や小説、戯曲などを暗唱するサークルに参加しているヒガシヤマ(平野)は、ある日、一人でアレン・ギンズバーグの長編詩「吠える」をひたすら練習していた。そんな彼のもとに謎の男・ルイケ(小林)が現れ・・。

2人芝居。前半はひたすらに2人の何気ない日常会話。でも目が離せない。ルイケは距離感の詰め方が異質で、どこか危ない感じを漂わせている。そんなルイケにこちらは不信感や心のざわめきを感じながらも、さして警戒する様子もなく自分が好きなことをすごく楽しそうに話すヒガシヤマを見ていると、2人の恋でも始まるのかとさえ思った。
けれどヒガシヤマが暗唱を披露するとこから雰囲気がかわる。暗唱し始めるために息を整える段階から空気がピリッとし、静寂から息もつかせぬ圧巻の暗唱がはじまる。すべての空気が掌握され視線が心が捕らわれる。
ヒガシヤマの暗唱が終わると何か感じたのか、ルイケが自分のことを話しはじめる。それがどれもこれも聞いてると気が滅入るようなことばかり。もう聞きたくないという思いが頂点まで達したとこで、やっとヒガシヤマが帰ると言い出す。なぜだと責め立てるルイケ。無理に帰ろうとするヒガシヤマだが…

もう心のざわめきが止まらない作品。後半は特に心臓がギュっとなって怖くて早く終わって!と思うほど。舞台は四方が席に取り囲まれ、舞台上には四角い黒いイスがいくつかあるだけ。観客席との境目がないので、そのうち二人を覗き見ている感覚に陥り、物音を立てたらルイケに気付かれて襲われるとまで思う。
舞台が終わったら開放されるのかと思いきや、最後がすっきりしないこともあって、ざわめきはおさまらない。凄いものを見てしまった。あれはなんだったんだ。何を見せられたのだろう。意味を見いだそうと必死になる。でもわからない。それでも落ち着くと、もう一度あの感覚を体感したくなる!毎回変化があったようで、全てを目撃したい全通したいと強く思った舞台は始めてだった。

演出・脚本、鈴木勝秀。微妙に会話がずれている感じや、人の聞きたくないことを絶妙に突いてくるセリフ。恐怖、緊迫感の作り方。どうやったらあんな会話劇が書けるんだろう。そして音響が怖い。
今回、新作「るぽえ」と「ウエアハウス」の2作品同時上演だったこと、この舞台はスズカツさんが26年に渡り実験しており役者に委ねる舞台ということで、演出はほぼせずいつも一回通して終わりだったらしい。だからこそ演出に縛られず毎回その時の気持ちで日々変わっていけたのかもしれない。でも役者だけでこのクオリティを出せることもビックリだし、脚本がよほどよく出来てるんだなとも思った。前回は3人芝居だったらしいのだがどうやったのか気になりすぎる…。

ルイケ役、小林且弥。背が大きく色気があって怪しげな雰囲気。もうそれだけで普通の人ヒガシヤマは絶対にかなわない絶望感。目が怖いイっちゃっている。会話も噛み合っているようでどこかズレていて、ノイズがだんだん大きくなっていく。圧の出し方が上手い。初回はただ、ただ、何この人!!早く逃げたほうがいいよ!と本能が叫んでいたが、2回みると、どうしてほしかったのか(初回は恐怖でそれどころではない)何となくわかったり、悲しい人なのかなとか、やっている事は初見と変わらないはずなのに色々と考えさせられた。

ヒガシヤマ役、平野良。設定は36歳既婚子持ち。何だかふんわりしていて可愛い。普通にいる人にみえるけど、実際はこんな可愛い36歳はいない。理詰めで話してくる感じも堪らない。暗唱すると覚醒する。平野良の真骨頂。この暗唱聞くためだけでも毎日通いたいと思ったし、これを聞くためにDVDが出たら絶対買う。
ヒガシヤマは少し警戒心の弱い普通の人。でも印象がないわけじゃなくて、むしろ印象が強くて、普通の人上手すぎない!?と思うのは何なんだろ。普通とはなんぞや。だからかこの作品、日によって変わるのはルイケではなくヒガシヤマだった。
ヒガシヤマが普通の人であればあるほど、恐怖すればするほど、その恐怖に呼応してしまう。でもノイズについて嬉しそうに話したり暗唱を見るとやっぱりどこかおかしいのかなとも思う。そんなとこにルイケも感化されてしまったのだろうか。


すごい二人だった。この作品は苦手な人もいただろうし、私もホラー系は苦手なので見終わるまでは一回でいいと思ってた。だけど映画を見ているのとは違う、目の前で繰り広げられているからこそのリアルな緊張感。なにものにも代えがたい感覚。演劇の醍醐味を味わえた作品だった。衝撃が強すぎて、それこそ賞もらえるんじゃないかと考えていたくらい。平野良のルイケも見てみたい。でも平野良の狂気をあんなに浴びるのは怖い。


色々な演出家さんとやりたいって言ってたけど、色々な演出家さんで見れるのはありがたいし、見ていてとても面白い。
平野さんは毎年今年の漢字を発表している。一昨年は「繋」。昨年は「旺」。今年は「為」で、その幕開けがウエアハウス。毎年その通りになっているので何を為してくれるのか、とても楽しみです。